ブックショップ

ペネロピ・フィッツジェラルド『ブックショップ』 ほんのわずかな希望の芽をひとつひとつ入念に潰されて肩落として帰るしかないです…こんな素敵な装丁なのに!?(装丁は関係ないか)世界は"絶望させる者"と"絶望させられる者"に分かれているというフィッツジェラルドの世界観を見事に反映させた作品といえるでしょう…いやしかし、本を読まなくても生きていける人はたくさんいるし、そういう人に無理矢理薦めるなんてことは、子供の頃、ためになる本を読みなさいと言われるのがめちゃくちゃイヤだった自分はしたくない。だからもうしょうがない。

スティーヴン・キング&べヴ・ヴィンセント編『死んだら飛べる』 どれも良かったが、リチャード・マシスン「高度二万フィートの悪夢」、E・C・タブ「ルシファー!」、ロアルド・ダール「彼らは歳を取るまい」が強く印象に残った。作戦遂行中に一時行方不明になった戦闘機パイロットが不可解な体験を語る「彼らは歳を取るまい」がとにかく素晴らしくて。困惑と興奮と恐怖が一度に襲ってくるような言葉にできないざわつきが胸に渦巻いた。第二次大戦中、空軍の撃墜王だったダールにしか書けない作品なんじゃないかと。ダールの短編集『飛行士たちの話』も読みたい。

倉知淳『日曜の夜は出たくない』 たぶん死ぬまで読んでる本格ミステリ。どんな精神状態でも読める。しかも倉知さんがミステリにとって重要だと考えているのは「ユーモアと温かみと論理」だそうで大変ありがたい。弱ってる私の救世主。倉知さんの作品は全編を通してふんわりふざけていて、作者のクスクス笑いが聞こえてくる感じと前に書いたのだけど、若竹七海曰く作者が「うふふ」とほくそ笑んでいる雰囲気だと。若竹さんは「うふふ」かあ。

宮部みゆき『さよならの儀式宮部みゆき初のSF短編集。おじいさんののんびりとした散歩が一変、不穏な空気に包まれる「戦闘員」が好み。「母の法律」はお坊ちゃま育ちの今の政治家たちの顔が浮かぶ。家族が大事、血の絆が大事、そう思えるのはあなたたちが恵まれているからですよ。「星に願いを」の意外な姉の実像にぞっとした。まるでニーチェの世界。"深淵を覗くならば…"だ。 「聖痕」もよかったなあ。最後までどうなるかわからなかった。こっちは"はじめに言があった…"だね。

ひみつのしつもん

岸本佐知子『ひみつのしつもん』 カバディ性を読んで同級生のイケメンに負けた苦々しい出来事が記憶の底から蘇った。あと私がいつも思い出せないのはダントツでクリスチャン・ベール。ほらあの…アメリカン・サイコの…バットマン役もやった…役によって痩せたり太ったりする…と全然出てこない。ちょっと前に"チャンベー"と略してる人を見て、これならいけるかも!と思ったがダメだった。今日も"バットマン"で検索しました。

又吉直樹『人間』 何者かになりたい若者たちのもがきをすっと抜けて、何者でもない、何者かである必要を感じていない人々の営みに移ってちょっとホッとした。漫画家や作家の卵が集う"ハウス"の管理人が「他の住人と仲良くしないで。狂うから」と主人公に忠告する場面を後々思い出して、ほんとそれなと。なぜ横ばかり気にするの?あまつさえ足を引っ張ろうとするの?どろどろとした感情が渦巻いていて、私だったら早々に退散すると思う。『アメリカン・クライム・ストーリー ヴェルサーチ暗殺』を観て、自分が普通の人間であるということに倦んでないって実は素晴らしいことなのではないかと思ったが、この本でもそう感じた。「人間が何者かである必要などないという無自覚な強さ」。

マリオ・バルガス=リョサ『シンコ・エスキナース街の罠』 政治絡みメロドラマ仕立てで南米の文学にちょっとばかり苦手意識がある私にも読みやすい。第二十章の不連続な出来事を絡みあわせた語りは他の作品でもやってましたっけ?読みにくさを超えて没入できる…というか没入して集中しないと置いていかれる。うねるような文章の連なりに圧倒された。

アレックス・マイクリーディーズ『サイコセラピスト』 ラストの足もとががらがらと崩れていくような感覚は『そしてミランダを殺す』を思い出すなあ。セオのお仕事パートと日常パート、時系列に沿ってないのでは?となると…というところまでは誰でも予想がつくと思うんですよ。しかしその先が…!このラストは予想できない。面白かった。

米澤穂信『Iの悲劇』  第二章「浅い池」の単純すぎるが故に思いつかない、答えがわかった時に脱力してしまう、あっけない幕切れが好き。誰も死なない日常の謎系ミステリは身近であるが故に思いのほか苦い後味を残す。あの出来事もこの感情も身に覚えがあるから。

 

2019年の15冊

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2019年の15冊(読んだ順)

  • エリザベス・ストラウト『何があってもおかしくない』
  • ジョン・チーヴァー『巨大なラジオ/泳ぐ人』
  • スティーヴン・キング『心霊電流』
  • コニー・ウィリス『クロストーク』『航路』
  • ネイサン・ヒル『ニックス』
  • ウィリー・ヴローティン『荒野にて』
  • 江國香織『彼女たちの場合は』
  • 劉慈欣『三体』
  • ジェニファー・イーガン『マンハッタン・ビーチ』
  • ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』
  • ルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』
  • マーロン・ジェイムズ『七つの殺人に関する簡潔な記録』
  • 川上未映子『夏物語』
  • リチャード・パワーズ『オーバーストーリー』

読みたい本が多すぎて、食べ放題で取りすぎてしまう人みたいになることが多い。今年はマイペースに、読みたい本を楽しく読めればいいかな。なんの目標も立てないぞ。

10:04

年末はなんとなく気が急いて、またあれもこれも病がぶり返してしまった。あれもこれも今年中に読んでおきたい。ほんとはそんな必要全然ないのに。でも楽しいからいいの。いいってことにしよう。

最近読んだ本だけでもざっと感想を書いておこう。

ベン・ラーナー『10:04』 自分という存在がゆらぐ瞬間、世界の見え方が変わる瞬間をコラージュしたようなちょっと変わった小説だった。他愛もない会話をしながら歩いていたら、ふいに開けた場所に出てこれまでとは全然違う風景が広がっていた。そんな感じ。主人公が常にごちゃごちゃ考えごとをしている作家にいそうなめんどくさいタイプで(というかもう作家自身なんだろうけど。一瞬、ベンって出てくるし)彼の独白を聞いてるだけで笑えた。 陳浩基『ディオゲネス変奏曲』 「サンタクロース殺し」「作家デビュー殺人事件」「見えないX」あたりが好み。定石通りの展開のあとひっくり返すのがこの作家の持ち味なのかな。絶対に犯人を当てられたくないという執念を感じる。 アーナルデュル・インドリダソン『厳寒の町』あまりに理不尽で脱力してしまうが、現実もだいたいそんなものだった。ずっと吹雪の中にいるエーレンデュルの弟を救いだす日は来るんだろうか。 藤野可織『私は幽霊を見ない』 私も幽霊を見ない。見たことがない。だから幽霊なんていないと思っている。でも怖い話は大好き。シネコンで違うシアターに迷いこんでしまった話、おっかないねえ。 そのシアターで『ローマの休日』を観ていた人たちはどこへ行ってしまったんだろう。

カナダ金貨の謎

有栖川有栖『カナダ金貨の謎』を読んで、本格ミステリはいいな、なにしろ心を揺さぶられない。文学は悲しかったり辛かったり苦しかったり、とかくしんどい思いをしがちだけれど、本格ミステリはもう精神安定剤の域と感じ入っていた。本格ミステリといえば森博嗣をすっかり読まなくなった。どこまで読んでたっけと調べてみた。

  • S&Mシリーズ(読了)
  • Vシリーズ(読了)
  • 四季シリーズ(読了)
  • Gシリーズ(『ηなのに夢のよう』まで読了)
  • Xシリーズ(『キラレ×キラレ』まで読了)
  • Wシリーズ(なんだそれは)
  • WWシリーズ(全然知らないぞ)

じゃあ京極夏彦百鬼夜行シリーズは?と検索するとこちらもスピンオフが出ていた。読まねば。いつか。あと火村先生とアリスは永遠に30代半ばという事を忘れないように。