デューン/砂の惑星

フランク・ハーバートデューン/砂の惑星 シーズン1が終わっただけじゃないですか。身分の差を乗り越えて二人が共に帝座につくことを期待していたわけですが、そういうわけにもいかないらしい。少なくともシーズン1では。皇帝の娘イルーランが立ち回りのうまい人物だったらチェイニーの立場が危ういのでは…と『ゲーム・オブ・スローンズ』で政治と権力と宗教の関係を学んだ私は心配です。

笑えるシーンもけっこうあったけど、映画だとさくっと切られてしまうのかな。泥酔して公爵への愛を語るモモアちゃん(ダンカン・アイダホ)とか、今!?ってタイミングで歌いだす吟遊詩人ジョシュ・ブローリン(ガーニー・ハレック)とか。 見たいなあ。

小野不由美『営繕かるかや怪異譚 その弐』 馴染みのある歌や風景の中に潜む怪異に鳥肌が立った。子供の頃、心霊番組を見てトイレに行くのが怖くなったり、シャンプーをしている時にうしろが気になったり…そんな記憶がよみがえる。大人になって、トイレに行くのが怖いなんてことはなくなった私も、家で一人で本を読んでいるのが心細くなってたまに顔をあげて周囲を見回したりした。重い空気が体にまとわりつくベタベタした日本のホラーはもう読めなくなってしまったが、このシリーズはふいに流れてくる生ぬるい風くらいの湿度で読みやすい。

 

偽詩人の世にも奇妙な栄光

四元康祐『偽詩人の世にも奇妙な栄光』 文芸誌で四元さんの詩をたまたま目にし、難解じゃない恥ずかしくない、むしろ笑えると驚いて、他の作品も読んでみたいと思ったのがいつだったか。しかもやっと手に取ったのが詩集ではなく小説。どんだけ詩に苦手意識があるんだ。主人公と作者を同一視してはならないとわかってはいるが、作中の「そこで朗読される詩の大半は生々しい自己表白が勝ち過ぎていて遊び心に欠け、昭洋には恥ずかしすぎた」という一節に、でしょう!?だから四元さんもああいう詩を書くんでしょう?と前のめりになってしまった。次こそは詩集を…と思うが日記も面白いらしいので気になっている。

ローレンス・ブロック編『短編画廊 絵から生まれた17の物語』 エドワード・ホッパーの絵から紡がれた17の物語。お気に入りはジル・D・ブロック「キャロラインの話」、ニコラス・クリストファー「海辺の部屋」、マイクル・コナリー「夜鷹」、ウォーレン・ムーア「夜のオフィスで」。キング、オーツ、ディーヴァーと人気作家が名を連ねるなか、意外にも名前も知らなかった作家の作品が新鮮で、心を揺さぶられた。アンソロジーの醍醐味。

マンハッタン・ビーチ

ジェニファー・イーガン『マンハッタン・ビーチ』 流れ流れて思わぬところにたどり着いた、そんな読後感。前半はちょっと退屈に感じてイーガンの新作にしてはありきたりすぎるなんてことを考えていたのだけれど、後半はまさに怒涛の展開。今度は待って待ってと追いつくのに必死だった。ノワールの面白さも味わえる海洋冒険小説と言ったらいいのかな。海の描写も素晴らしかった。風になびくリディアの巻き毛、真っ暗な海底を潜水服で歩くアナ、激しい波に翻弄される船員たち。どれも心に残っている。

ヘンリー・ジェイムズ『ねじの回転』 果たして本当に亡霊はいたのか?わからない。すべては彼女の妄想なのか?わからない。信頼できない語り手による幽霊譚といえば『エアーズ家の没落』が頭に浮かぶが、あれは自分なりの答えが出せる。しかしこの小説は取っかかりが得られず途方に暮れてしまった。置き去りにされた気分。回答を与えることを周到に回避し「解けない謎」としてジェイムズが『ねじの回転』を残したとしか思えない。出版当時、一部の雑誌や新聞が「魂が汚される邪悪な物語」「英語で書かれたもっとも忌まわしい物語」と酷評したのは、作中でほのめかされるセクシャリティの問題だけでなく「解けない謎」へのいらだちもあったのでは。

ブレイディみかこ『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』日本人の母とアイルランド人の父を持つ息子くんのイギリス中学生ライフ。彼が通う元底辺中学校では差別もいじめも日常茶飯事で頭を抱えてしまうが、その都度疑問を投げかけ解決策を探す息子くんの逞しさに救われる。「春巻きのどにつまらせたみたいな東洋人の声」と無駄に表現力がある悪口を息子くんに浴びせたレイシストの移民の子が、逆にいじめの対象になった時は助けようとするしマジでいい子。そしてそんな息子くんの悩みに向き合うブレイディさんの思考と視点に何度もハッとさせられた。「分断とは、そのどれか一つを他者の身にまとわせ、自分のほうが上にいるのだと思えるアイデンティティを身にまとうときに起こるものなのかもしれない」「多様性は、うんざりするほど大変だし、めんどくさいけど無知を減らすからいいことなんだ」

三体

劉慈欣『三体』 ずっと手さぐり状態で序盤はホラー、中盤はサスペンス、全体像が見えた段階でやっとSFと何度も感触が変わった。読後あれこれ書評を読んでいたらあっさり要約が載ってたりしたので、改めてなにも知らないまま読んでよかったなと。面白さの理由の一つに構成の巧さがあると思うから。不可解な出来事の数々と膨張していく世界にページを繰る手が止まらなかった。内容にはあまり触れたくないけど一つだけ。史強刑事のデリカシーのなさ、犯罪心理捜査官セバスチャンを思い出させる。

エイモア・トールズ『モスクワの伯爵』 長く続いた帝政時代が終わりボリシェヴィキ政権が誕生したロシア。貴族の財産は没収され、この物語の主人公であるロストフ伯爵は「ホテルに一生軟禁」の刑を受ける。それまで暮らしていたスイートを追い出され、屋根裏部屋をあてがわれるが「自らの境遇の主人とならなければ、その人間は一生境遇の奴隷となる」という名付け親が残した言葉を信条に、表向きは飄々と、しかし堅忍不抜の精神で軟禁生活を乗り越えていく。久しぶりに終始楽しく気分のいい読書だった。そんなに楽しかったのなら、もっとこういう作品を読めばいいのにと思うがメンタル削られ系の本が好きなのでしょうがない。高潔で博識、ジェントルマンのお手本のような伯爵の人柄に惹かれ集まってくる人々との交流があたたかく微笑ましい。当時の国際情勢や高級ホテルの裏側を垣間見ることができたのもよかった。

 

拳銃使いの娘

ジョー・イデ『IQ 2』 初っ端からアクセル全開だった前作と違いゆっくりとした滑り出しでなかなか乗れなかったが、メキシコ系ギャング、中国系ギャング、高利貸しが入り乱れての総力戦でテンション上がりきりました。兄の事件もケリが付いてすっきり。海外ドラマだったら引っぱるだけ引っぱってイライラしてるところ。しかし新たな確執が生じたので今後この件がアイゼイアに影を落とすことになるのかも。

ファン・ジョンウン『誰でもない』ファン・ジョンウンは一撃でしとめる作家とどこかで見て、好きかもしれないと手に取った。やはりどんぴしゃ好みであった。長編の『野蛮なアリスさん』も読みたい。この息苦しさ、居心地の悪さ、閉塞感はフラナリー・オコナ―や今村夏子に通じるものがあるような気がする。特に「上流には猛禽類」は今村さんみがあった。汚水が流れる渓谷におりたいと言い出した恋人の母親に主人公が戸惑う場面のいたたまれなさなど既視感ある。

コリン・バレット『ヤングスキンズ』 『誰でもない』のすぐあとにこの作品を読むのはけっこうきつかった。出口が見えない田舎町の閉塞感に加えて、鬱屈した若者たちによる気軽な憂さ晴らしのような暴力。それによって傷つけられる者。暴力を振るう側も道を踏み外していく。あまりの陰鬱さに青空を見たくなった。この世界の空はきっと鈍色。 

ジョーダン・ハーパー『拳銃使いの娘』 ギャング組織を敵に回した父とその娘の逃亡劇。はじめは怯えていた娘のポリーが父の想像を超えて覚醒していくさまがなんともかっこよくて痺れる。相棒のクマちゃんもいい味出してた。地元警察も彼らを追っているのだけど、追跡こそが我が本能という犬みたいなパク刑事を妙に気に入ってしまった。彼のスピンオフを作ってほしいくらい。刑事になって最初の追跡の時に「パクは自分の体内で何かが盛り上がって砕けるのを感じた。あまりに強烈な感覚だったので、ズボンの前をすばやく検めて、ぶっぱなしていないのを確かめた」んですよ。変態だわあ(好き)。