小説という毒を浴びる

『小説という毒を浴びる 桜庭一樹書評集』 ぱくぱくよく食べる人を見ると気持ちいいと感じるように、たくさん本を読む人を見るのも気持ちいい。相変わらずの読みっぷりにほれぼれする。私は書評より日々何を読んだかを辿るのが好きなようで読書日記の章が特に楽しかった。本屋をぷらぷらして見つけた本や編集者(読書家が多い桜庭さん周辺)に薦められて読んだ本など、その時々の出会いを伺い知ることができるのがいい。太宰治三島由紀夫は読むな、死んじゃうからと禁止令を出していた桜庭さんのお父さん面白いな。芥川龍之介は禁止しなくていいんですかお父さん。

グレアム・ムーア『訴訟王エジソンの標的』この小説の中ではほぼいいところなしのエジソンが不憫に思えてきたので、ベネさんの映画ではかっこよく描かれていることを願う。

フェルディナント・フォン・シーラッハ『刑罰』 善悪を問うでもなく淡々と語られる異様な事件の数々。やりきれない、気持ちの置き場がない、もやもやとしたものが胸に広がる。 

じゃじゃ馬にさせといて

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松田青子『じゃじゃ馬にさせといて』を読んだ。松田さんのエッセイは「わかる!」を連発してしまうので逆に感想を書きにくかった。「好きな異性のタイプは、ともし問われたら『クリミナル・マインド』のドクター・スペンサー・リードと即答する」わかる!私も! 「映画『ザ・クラフト』みたいな雰囲気があるし『ブラック・マジック』もすごく好き」わかる!私は一時期あのMVを見まくってた。『ザ・クラフト』が好きだという松田さんにからめて以前このブログでも書いた。「トムヒとテイラーの海外ロマンティックデート写真が登場した。私の死にかけていた心が一気に息を吹き返した」わかる!私は友達に「盛り上がってまいりました!!!」とメール送っちゃった、と延々と続く。テイラーといえば新曲で「ちょっと落ち着いたらどうかな?」と歌って、お前が言うな!と総ツッコミ食らってるの面白かった。

彼女たちの場合は

ジェイ・ルービン編『ペンギン・ブックスが選んだ日本の名短篇29』をちびちび読んでいる。ふだんは読みたい本だけ読んでいるので、こういうアンソロジーを読むと好き嫌いがよくわかって面白い。河野多惠子「箱の中」、阿部昭「桃」、内田百閒「件」がよかった。

江國香織『彼女たちの場合は』を読んだ。『荒野にて』を読んだあとだったので、最初のうちは書き置きだけを残して親のカードと留学資金でアメリカを旅し続ける14歳の礼那と17歳の逸佳が甘やかされたお嬢様たちにしか見えなくて困った。これは読むタイミングを間違えちゃったか?と。でも読み進めるうちに人懐っこくてちょっと無謀なところがある「れーな」と、"ノー"が多くて心を開くのが苦手な「いつか」のことがとても好きになった。旅で出会った人々も忘れがたい。編物男のクリスが好きだなあ。二人とお別れする時間が近づいて「グッバイを言うのが苦手なんだ」と明かしたあとに、「大人になると自分が感じたことをこんなふうに正直に話したりしない」「きみたちのことがうらやましいんだ」と言うシーンはそのまま私の気持ちだった。飛び跳ねる魚のような二人を見ていたいよね。

荒野にて

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映画化したんだって?といつものミーハー心で手に取ったウィリー・ヴローティン『荒野にて』がとてもよかった。訳者あとがきによるとドナ・タートは作者のファンだと公言しているらしく、それ早く言ってよーという感じ。そんなミーハーな私とは裏腹に作品はシビアで、そして不思議な美しさがあった。ある事件をきっかけに馬を連れて唯一の身よりである伯母を探す旅に出た15歳のチャーリー。数々の苦難が降りかかる中、馬のピートを相手に訥々と夢を語るシーンにぐっときた。ビル・ビバリーの『東の果て、夜へ』が好きな人にお薦めしたい。心打たれるロードノベル。

映画で主人公チャーリーを演じたのが『ゲティ家の身代金』の富豪の孫、チャーリー・プラマーだと知って驚いた。大金持ちから一文無しに。チャーリーにきつくあたる馬主のデルがスティーヴ・ブシェミというのも楽しみ。

ビル・クリントン、ジェイムズ・パタースン『大統領失踪』を読む前に『エンド・オブ・ホワイトハウス』を観てホワイトハウスの内部構造を頭に入れておこう、映画では大統領が人質にとられちゃうのねふむふむと再生ボタンを押したら、これは戦争映画ですか?と面食らうほどの激しい銃撃戦が始まって「ホワイトハウスはそんじょそこらのテロリストには負けませんでえ」とアメリカのドヤ顔を見せられている気分になった。『大統領失踪』は大筋よりも細部に元大統領が書いた小説ならではの面白さを感じた。車の運転に手間取るシーンとか。大統領でいるあいだは自分で運転する機会は全くないのかな。

 決して外で読んではいけない作家、木下古栗の『人間界の諸相』も読んだ。ニヤニヤするのはまだマシなほうで、笑いながら倒れこんでそのままなかなか起き上がれないことがあるので本当に注意が必要。いつも不意打ちをくらって笑い崩れてしまう。古栗の作品は現実の出来事をおかしな方向にスライドさせているだけで、「あなたたち人間の営みはこれくらい意味がない」と訴えているように感じる。気のせいかもしれないが。特に好きなのは「創造的破壊」「遠隔操作」「位置情報」「市場原理」「毛のない猿の蛮行」。